
【新築住宅会社向け】中古住宅市場における参入事業の選び方
新築住宅市場が低迷する中、多くの住宅会社が中古住宅市場への参入を検討しています。本記事では、まず日本における中古住宅市場の現状を解説し、新築住宅会社が中古市場へ参入する際に検討すべき事業の種類と選び方についてご紹介します。
この記事で分かること=========
・中古住宅市場の現状
・中古住宅市場における5つの事業
・参入事業を選ぶときの4つの視点
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目次[非表示]
中古住宅市場の現状

国内の新築住宅着工数は長期的な減少傾向にある一方で、中古住宅市場は拡大を続けています。たとえば買取再販事業では、2014年に約2.14万戸だった規模が2018年には3.25万戸となり、2025年には4.5万戸に達すると予測されており、わずか10年で規模が倍増する成長スピードです(※1)。
この背景には、住宅ストックの増加と人口動態の変化があります。政府も空き家問題への対策として税制優遇など中古流通促進策を打ち出しており、市場に追い風が吹いている状況です。また、中古住宅の流通活性化は、地域コミュニティの維持や環境負荷の軽減といった社会的課題の解決にもつながるため、政策的な後押しは今後も継続するでしょう。
こうした市場環境の変化を理由に、新築住宅を主力としてきた住宅会社が中古住宅市場への参入を検討するケースが増加しています。
※1 引用元:デザイン工務店「【Part.1】じわじわと拡大する中古住宅市場。なぜ、伸びているの?」2020年1月
中古住宅市場における5つの事業

では、中古住宅市場には、具体的にどのような事業領域があるのでしょうか。ここでは、新築住宅会社が中古住宅市場への参入可能な5つの主要事業について、それぞれ解説していきます。
①買取再販事業
買取再販事業は、中古住宅を自社で買い取り、必要に応じてリフォームやリノベーションを施したうえで再販売するビジネスです。いわゆる「住宅再生事業」にあたり、建物に新たな価値を付加して販売することで利益を生み出します。
この事業モデルの特徴は、物件の仕入れから再生、販売まで一貫して自社でコントロールできる点で、利益率をコントロールしやすい反面、在庫リスクや資金負担が大きいという側面もあります。
需要面では、近年、若年層を中心に"中古×リノベーション"のニーズが高まっています。新築物件よりも手頃な価格で、特にデザイン性や環境配慮を打ち出した再販住宅が注目されており、単なる中古物件ではなく「再生された価値ある住宅」として市場に受け入れられています。
また、住宅会社にとっては、長年培ってきた設計・施工ノウハウを活かして高品質なリノベ住宅を供給できる点が大きな強みになるでしょう。新築で培ったノウハウを中古住宅の再生にも活用することで、他の買取再販事業者との差別化が可能です。また、新築事業で構築した営業網や顧客基盤を活用できれば、販売面でも優位性を発揮できるでしょう。
②リフォーム・リノベーション請負事業
リフォーム・リノベーション請負事業は、中古住宅の改修や再生工事を、物件所有者や中古購入者からの依頼に基づいて請け負う事業です。買取再販事業と異なり、住宅所有者または中古物件購入者の依頼に基づき施工サービスを提供するため、在庫リスクを抱えずに済みます。
この事業の魅力は、新築事業を主軸としてきた工務店にとって参入しやすい点です。自社の建築施工ノウハウをそのまま活かせる分野であり、特別な新規投資を必要としないケースも多くあります。既存の職人ネットワークや資材調達ルートを活用できるため、スムーズな事業立ち上げが期待できるでしょう。
③不動産仲介業
不動産仲介業は、中古住宅や土地の売主と買主を仲介し、物件情報の提供や契約手続きを支援する事業です。売主と買主の間に立ち、物件情報の提供から契約手続きサポートまでを行い、成約時に仲介手数料収入を得ます。宅地建物取引業の免許が必要となりますが、在庫を持たないストックビジネスとして安定的な収益基盤を構築できる可能性があります。
このビジネスモデルの特徴は、住宅会社が仲介業に参入することで、「土地探し〜設計・施工〜引き渡し後のアフターサービス」を一気通貫で提供するワンストップ体制を構築できることです。顧客にとっては、複数の業者とやり取りする手間が省け、かつ一つの会社に任せられる安心感がある一方で、住宅会社側も、顧客との接点を増やすことで、新築案件やリフォーム案件への機会を広げられるでしょう。
④中古住宅検査サービス
中古住宅検査サービスは、住宅診断の専門家が、建物の構造劣化や雨漏りの有無、設備の状態などを調査・評価し支援する事業です。2018年の宅建業法改正により、不動産会社は中古住宅取引時に検査・点検の実施意向を売主・買主に説明することが義務化されました。この法改正により、中古住宅検査サービスは中古住宅取引において重要な位置づけとなっています。
現在では、中古物件検討者が住宅検査を知る機会が増え、「中古住宅でも事前に専門家の診断を受けられる」という認識が広がっています。購入前に建物の状態を客観的に把握できることは、買主にとって大きな安心材料であり、売主側にとってもスムーズに売却へつなげられる効果が期待できます。
⑤中古住宅保証サービス
中古住宅保証サービスは、中古住宅を購入する際の不安を軽減するために、住宅会社や不動産業者が加入する保証サービスです。新築住宅には10年間の住宅瑕疵担保責任が義務付けられていますが、中古住宅には瑕疵保険の加入が任意になっています。したがって、お施主様は「買った後に大きな欠陥が見つかったらどうしよう」という不安を抱えるケースも少なくありません。
こうした不安を解消するため、住宅会社が独自に構造躯体や雨漏りの保証を最大5年間提供したり、設備機器の修理保証を付帯したりする事例が増えています。こうした保証サービスを手厚くすることで、お施主様の中古住宅への購入ハードルを下げることができ、また保証期間中に発生した不具合への対応を通じて、顧客との信頼関係を深められるという副次的効果も期待できるでしょう。
中古住宅市場の参入事業を選ぶ4つの視点

では、先ほど紹介した5つの事業領域から、自社に適した参入先を選ぶには、どのような観点で判断すればよいのでしょうか。ここでは、事業選定の際に検討すべき4つの重要な視点について解説します。
①参入地域で十分な中古住宅需要があるか?
中古住宅市場の需要は地域によって差があるため、参入地域で需要が確かに存在しているかを確認しましょう。
例えば、都市部では中古マンションを中心に市場が活発で価格上昇を牽引していますが、一方で人口減少が進む地方郊外では買い手探しに時間がかかり、半年以上売れ残る物件も少なくありません。市場規模が小さいエリアで買取再販事業を始めても、販売に時間がかかり資金回収が遅れる可能性があります。
また、地方でも福岡市や札幌市のように人口流入が続くエリアでは中古物件が都市圏並みに流通しているケースもあります。つまり、単純に「都市部か地方か」という区分ではなく、そのエリアの人口動態や経済活動の活発度を見極めることも、参入地域の選定において重要というわけです。
②販売先を安定的に確保できるか?
中古住宅事業を継続させるには、「どこから仕入れるか」よりも「どこに売るか」を抑えることも重要です。なぜなら、いくら良い物件を再生しても、買ってくれる顧客が見つからなければ在庫リスクが大きくなるからです。特に買取再販事業では、仕入れた物件に対してリフォーム費用や保有期間中の固定費が発生するため、販売先のルートを先行して確保する戦略が有効でしょう。
販売先の確保には、複数のチャネルを持つことが理想的で、「自社販売」「仲介提携」「地域ネットワーク」「OB顧客」など、販売候補先を複数抑えておくことで、市場環境の変化にも柔軟に対応できます。たとえば、自社の新築事業で築いた顧客基盤に対して、住み替えや投資用物件としてリノベ住宅を提案できれば、販売リードタイムを短縮できるはずです。
③自社の能力が生かせるか?
自社が持つリソースや強みを新規事業で活かせるかも重要な視点です。住宅会社は、長年培ってきた施工技術や現場ノウハウ、地域密着の営業ネットワークなど、他社にない武器を持っています。これらの既存資産を新規事業で活用できれば、初期投資を抑えながら競合に対する優位性が期待できるでしょう。
例えば、施工力に自信があるならリノベーション再販で高品質な住宅提供が。デザイン力が強みなら、若年層向けのおしゃれな再販物件などが挙げられます。一方、地域顧客の信頼が厚いなら仲介とリフォームサービスのワンストップ展開に優位性があるでしょう。顧客との長期的な関係性を築いてきた企業であれば、その信頼をベースに新しいサービスを提案しやすいはずです。
④既存事業と相乗効果はあるか?
新しい中古住宅事業が、いまの主力事業と「お互いに利益を高め合う関係」になれるかも視点として持っておくとよいでしょう。単に事業が並列に存在するだけでなく、既存事業と新事業が互いに売上を高め合う関係が築けると、シナジー効果が期待できます。
たとえば、土地探しから新築・中古の提案、リフォームまでを一貫して扱える体制を整えれば、1件の問い合わせから複数の契約機会を生み出すことが可能になり、営業や広告のコストを削減できます。また、新築を検討しているお施主様に中古+リノベというセットの選択肢を提示できれば、予算の都合で成約に至らなかったケースを救える可能性も十分に期待できます。
自社の能力や経験が生かせる事業選びも有効

中古住宅市場への参入を成功させるポイントとして、自社の能力や経験などを活かせる事業を選ぶことも有効な選択肢です。新築住宅会社は、家づくりに関する豊富なノウハウと実績を持っているので、新たな事業領域でも能力やノウハウを発揮できれば、高い競争優位性を発揮できるでしょう。
例えば、施工力を活かせるなら「買取再販」や「リノベーション請負」、顧客接点を持つなら「仲介+リフォーム提案」など、自社の得意分野と事業モデルを掛け合わせるのも1つのアプローチでしょう。
中古住宅市場は、今後も成長が見込まれる大きなチャンスに満ちています。ご紹介した視点を参考に、自社の強みを最大限に発揮できる事業を選定することが、この成長市場で成功を掴むための鍵となります。
皆様の会社が、中古住宅市場で輝かしい成果を上げるための第一歩を、ぜひ踏み出してください。

