カスタマーハラスメントへの対応策

企業などに対する理不尽なクレーム、度を越した要求、暴言や暴行などのカスタマー(顧客、消費者、利用者など)によるハラスメント行為をカスタマーハラスメント(カスハラ)と言います。
工務店でも増加傾向にあるカスハラは、あらかじめ対応方針を定めておく必要があります。
デジタルコミュニケーションの特殊性
顧客から長文メールが大量に送られ、その対応に困ってしまうという法律相談事例があります。
自分の要望を通すために大量のメールを送る場合もありますが、中には従業員を困らせる目的で、深夜や休日にかまわず長文や大量のメールを送りつけてくるカスハラ顧客もいます。
こうした対応が続くと、メール処理だけで大きなストレスや支障が生じ、業務全体に混乱をきたす恐れがあります。
また、顧客からのクレームをLINEで受け付けていると、昼夜を問わず連絡が入り、すぐに返事をしないと怒りのメッセージが届く、といった事態にもなりかねません。
LINEはクレーム対応には適したツールとはいえないでしょう。

企業を守るための法的措置

企業側の中止要求にも関わらず、大量のメール送信を続ける場合や、顧客が嫌がらせのためにわざとメールにウイルスを添付して送信してきた場合などは、裁判所からのメール送信禁止の仮処分命令を発令する等を検討してもよいでしょう。
それでも、顧客がそれに従わずにメールを送信し続ける場合には、お金を支払わせる間接強制を行うこともできます。
間接強制とは、裁判所から「違反した場合には1回につき○万円支払いなさい」という命令が出されることで、相手方に心理的な強制を加え、仮処分命令の内容を実現させる方法です。
改正労働施策総合推進法が国会にて可決・成立
2025年6月4日に、カスハラ対策を雇用主に義務付ける改正労働施策総合推進法が国会にて可決・成立しました。
労働者が1人でもいれば事業主に該当しますので、多くの工務店さんは改正法施行日(早ければ2026年10月頃)までにカスタマーハラスメントに関する指針を作成するなどの対応を準備しましょう。
また、同法に違反した事業主は、報告徴求命令、助言、指導、勧告または公表の対象となることにも注意が必要です。
そして現在、カスタマーハラスメントを防止するための条例が、東京都、群馬県、北海道、三重県桑名市は制定済みで、検討は全国の自治体で、進んでいます。
まとめ
紛争ごとは、チームで解決
紛争を一人で解決しようとすると、精神的に大きな負担となり、疲弊してしまいます。特に、連日休みなく夜間や休日にもメールやLINEで責め立てられると、心身を壊してしまう人も出てきます。過剰なクレームや悪質なクレームについては、早めに兆候を捉え、チームで対応することが大切です。
まずは、顧客には責任者が対応することを伝え、担当者のLINEではなく責任者宛に連絡してもらうようにし、組織的に対応する体制を整えましょう。
そのうえで、クレーム対応については弁護士に早めに相談することをおすすめします。チームでの対策会議に弁護士が10分だけでもテレビ会議に参加し、法律的な観点から整理を行うことで、クレーム対応は格段にスムーズになります。


秋野卓生(あきの たくお)
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
【役職等】
令和6年度 日本弁護士連合会常務理事、第二東京弁護士会副会長

