ウッドショック対応策!原価高騰に備える契約手法とは。
今、住宅業界で深刻な問題になっているウッドショックは、法律的には不可抗力と言いがたい側面があります。
米国や中国の旺盛な住宅需要という他国の事情が最も大きな要因となっていて、欧州の製材会社が米国向けの販売量を増やし、その結果、日本に材料が回ってこないという現象であり、リーマンショックのような経済事情の激変にあたるか? というと、そうではありません。
「経済事情の激変にあたるので、工期や請負代金の変更を求めることができる」と解釈することが難しい側面があり、東日本大震災後のサプライチェーンの崩壊といった事象とも異なる側面を持ちます。
私は、住宅会社から法律相談を受ける弁護士として、このウッドショックによるトラブルが起きないような対処をしなければならないと考え、施主に十分な説明責任を果たした上での「合意書」の作成を提案してきました。
法的相談の例
● 1月にプレカット工場に170万円で発注したが、お客様との打ち合わせが長引き、5月上棟となった。プレカット工場から70万円の値上げの依頼が来たが、これを断ったところ、次の物件のプレカット納品ができないと言われてしまった
● 建売住宅の現場が止まり、資金繰りが苦しい(専属的に仕事をしている大工)
「工期を遵守しなければならない住宅会社が、遅延損害金の負担なく、当然の如く工期を延長する合意書などとんでもない!」といった批判も受けますが、家づくりに関するリスクは、とにかく「早く」施主に情報提供をし、十分な説明をすることがトラブル回避のために何よりも重要です。
今回のウッドショックについては、施主と住宅会社が手を携えて乗り越えていかなければならない課題と考えており、合意書の締結を住宅会社に提案し続けています。ウッドショックの深刻さを伝える必要性を感じているものの、失注となっては元も子もない、ということでしょうから、最近は請負契約約款をウッドショック対応の内容に改訂してはどうか? という提案もしています。
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レベニューシェア型請負契約
今回、住宅業界の皆様にご提案したい契約手法が「レベニューシェア型請負契約」です。IT業界において注目されている新しい契約形態であり、発注側と受託側で将来発生する売上や利益を分配することを条件に、発注側のシステム初期投資を抑える契約です。
例えば、賃貸住宅の建築において、工事請負代金額を抑えて、その代わりに物件管理費を毎月受領していく契約形態が考えられます。これは、住宅の請負契約にも応用でき、建物建築契約 + 建築後の維持管理契約として「レベニューシェア型請負契約」を採用するという手法もあります。
報道によると、積水ハウスは6月、すべての木造住宅の値上げを実施したそうです。大和ハウス工業も、一部の木造住宅価格(土地代を除く)を1%値上げしたそうです。
多くの工務店さんも値上げを検討しなければならない状況だと思いますが、値上げすると顧客が離れていくリスクもあります。
今こそ初期費用は抑えて、維持管理等で利益を確保していく契約の仕方、すなわち建物建築後の維持管理費用を契約に基づき、受領して利益を得ていくというビジネススタイルに着手すべきではないでしょうか?
新しいビジネススタイルの構築へ
以前、ある勉強会に行った法律顧問先の工務店が「うちのような田舎では顧客層の所得が低く、ローコストでないと見積もりすらさせてもらえない」という話をしていました。「では、ローコスト住宅をどうやって実現する勉強会でしたか?」と質問すると、「基礎などの基本構造部分の低品質化を図るという説明を受けてきた」と聞いて愕然としたことがあります。
それでしたら、よっぽど、強い構造と断熱の住宅をギリギリ検査済証が取得できる範囲でローコストでつくり(いわゆるハーフビルド)、その後、入居者と一緒にリフォームを実施する感覚で何年にもわたって内装工事をDIY的に一緒にやった方が、長持ちする安心・安全な建物を消費者は取得できるではないかと思い、ハーフビルドで1000万円を切る住宅をつくったらどうかと打診した経緯もあります。
この私の少数説は住宅業界で受け入れられずにきましたが、今、再考すべき「価値のある家づくり」ではないでしょうか?
もっとOB顧客の生活に密着するビジネスモデルを
「お客様と一生のお付き合い」と住宅会社が言いながら、約束した点検に行けていない現状は、要するに「OB顧客から儲ける」という発想を持たなかったからだと思います。
ビジネスモデルの転換が必要な今こそ、OB顧客にお金を支払ってもらうビジネスモデルを開発して実践する時ではないでしょうか?
例えば、お掃除サービスや高齢者宅見回りサービス、生協のような生鮮食料品の販売サービスなど、あらゆるサービスを提供しながら、コミュニケーションをとり、お金を儲けるサービスが実践できないだろうか?ということです。
「レベニューシェア型請負契約」の発想を持てば、引き渡し後もお金を支払っていただくサービスの提供という観点となりますので、この実現が可能です。
新しい住生活基本計画
3月19日、2030年までを計画期間とする新たな住生活基本計画(全国計画)が閣議決定されました。
新たな住生活基本計画(全国計画)が目指す社会においては、耐用年数が経過した後においても(30年後、50年後においても)高い資産価値を有する建物が優位性を持つことになると思います。
設計事務所は、設計・監理業務委託契約書から、設計・監理・維持管理業務委託契約書に契約書をアレンジする。住宅会社は、工事請負契約書から工事請負・維持管理業務委託契約に契約書をアレンジするという「レベニューシェア型」の契約書を書式の一つとして持つべき時代が到来していると言えます。
原価が高騰し、消費税インボイス制度の導入により、住宅価格を引き上げなければ、工務店に必要な利益が確保できないリスクが発現している今、①値上げをするという選択肢 ②値上げはせずにレベニューシェア型の契約にして、維持管理費用の支払いを得る ③ハーフビルドの住宅建築で建築コストを抑える工夫など、複数の引き出しを準備し、目の前のお客様の事情に合わせた提案をお願いしたい と思います。
これからは戦略的法務の時代です。
工務店経営者は契約書を複数使いこなし、ビジネスのバリエーションを増やす工夫に着手していただきたいと思います。
私も契約書作りの場面で応援します!
秋野卓生(あきの たくお)
弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。
【役職等】
平成16年〜平成18年 東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント