ジャパンホームシールドのTIPS

地盤調査データ改ざん問題は、建築DXで克服できるか

   
   建築DXを促進すべく、その法的理論武装の構築に力を入れている弁護士として、不祥事をDXの力で克服できるかという点に大変興味があります。
そこで今回は、令和3年にニュースとなった地盤調査データ改ざん問題を例に、建築DXで不正行為を克服できるかについて解説いたします。


目次[非表示]

  1. 1. ​​​建築DXとは?
  2. 2. 建築DXを阻むもの
  3. 3. 地盤調査データ改ざんの動機
  4. 4. 不正防止のポイントは?
  5. 5. 住宅会社は地盤調査データにもっと関心を
  6. 6. 地盤調査報告書は立派なものである必要はない
  7. 7. 施主の目も活用できないか?
  8. 8. プロの力の結集が、建築DXの出発点

     

 ​​​建築DXとは?

   
​​​​​​​   DXとは「デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation)」の略で、 IT技術やシステムを活用することにより、業務の効率化や人々の豊かな生活を実現するという概念です。

   建築業界では、遠隔管理という新しい概念が登場しました。現場監督や工事監理者が現場に常駐せずとも、Webカメラなどを活用してオフィスで現場を確認できるのでは? という観点で、業務効率の向上を果たす方法として注目されています。

 建築DXを阻むもの

   
   建築業界は、多くの不正が発生し、その都度、建設業法や建築士法が規制強化されてきた過去があります。人の目で確認をしなければ不正が起きてしまうとすれば、建築DXなど採用できるはずはなく、生産性向上が難しくなります。

​​​​​​​   私は、建築現場の生産性を高め、職人をはじめとする全ての働き手の待遇向上につなげなければ、建築業界はいずれ深刻な人材不足に陥ると心配している一人ですので、こういった不祥事をITの力で防ぐメカニズムを社会に証明し、不正防止のための悪しき規制をどんどん撤廃していくべきだと感じております。

 地盤調査データ改ざんの動機

   
   「地盤調査不正に関する第三者評価報告書」によると、不正を働いた元社員は普通に出勤し、現場まで赴いています。その一方で、現場での地盤調査作業を全部又は一部行わずに帰社し、その事実を隠すために、事務所で地盤調査報告書を偽造して作成しています。
​​​​​​​この行為には現場での作業を行いたくないという意図が表れており、不正を働いた元社員の「楽をしたかった」という言葉とも一致しています。

   このような事実関係から、現場での作業を省略するためにデータを流用する不正行為に至った可能性が高いと考えられます。

   また、地盤調査作業を故意的に早く終了していることが発覚しないように、地盤調査データを付け足した可能性が高いと判断するとの評価が書かれています。

 不正防止のポイントは?

   
   故意による不正を、誰の目で管理するかが焦点となろうかと思います。

   私は、ジャパンホームシールドが採用している「GeoWeb System」(現場とオフィスで地盤調査データを共有し、ヒューマンエラーや不正行為を防止するシステム)の採用や複数の目でこういった情報を共有する仕組みが良いのではないかと考えています。
すなわち、故意に不正を働く者は、「監視されている」状況下では不正は行いません。

   また、元請住宅会社への業務報告もこういったシステムをベースに行い、元請住宅会社の目も活用できれば、故意犯は防げるのではないかと考えます。



 住宅会社は地盤調査データにもっと関心を

   
   土の中で何が起きているかは、正直よく分かりません。だから、地盤調査会社に一任している住宅会社が多いと思うのですが、地盤の不同沈下等に関わる裁判を複数件取り扱っている私にしてみると、地盤事故が起きた場合には、元請住宅会社にかかる損害賠償金額は多額にのぼり、非常に大きなリスクを抱えます。

   もっと住宅会社は地盤に関心を寄せ、地盤調査データを基に地盤調査会社と一緒に議論して基礎設計を行う等していくことも、とても重要です。

 地盤調査報告書は立派なものである必要はない

   
​​​​​​​   建築士法上、地盤調査は基礎設計についての最終責任を負う建築士(建築士事務所登録をしている住宅会社であれば、当該住宅会社)の補助業務であり、本来は、上がってきた地盤調査データや解析結果を基に、最後の判定は建築士または住宅会社が行うべきものです。

   立派な地盤調査報告書の製本に時間とコストをかけるなら、地盤調査データをクラウド上にアップロードして、住宅会社の設計者と地盤調査会社との間でチャットなどを活用して議論をし、住宅会社の設計者の責任で、改良工事の要否を決める運用にする事が大切であろうと思います。
こういった取り組みをすれば、今回発生したような地盤調査データの改ざんはすぐにバレますので、不正防止の取り組みとしてはベターなのではないかと思います。

 施主の目も活用できないか?

   
​​​​​​​   住宅会社と地盤調査会社で地盤調査データを連携することができれば、施主への説明も、住宅会社と地盤調査会社から施主に行う事も検討してみてはいかがでしょうか?今は、わざわざ対面しなくてもテレビ会議やチャットなどでいくらでも情報共有や説明ができます。

   住宅会社にしても、施主からの「どうして地盤改良工事が必要なのか?」という問いに対して技術的に回答できていない会社が多いですよね!テレビ会議やチャットで、地盤調査会社に説明してもらう運用ができれば、技術的な説明も可能となりますし、そもそも施主の疑問に答えるよりどころが「地盤調査データ」となりますので、不正はまず起きえません。

 プロの力の結集が、建築DXの出発点

   
   施主対応は元請け住宅会社に任せて、下請は黙々と作業をしていれば良いというのは、建築DXの未来像ではありません。

    安全・安心な建物を建築するにあたり、施主にも丁寧な説明がなされ、施主の納得感を得て業務進めていく そのためには技術情報もオープンにしていかなければならず、そこにはブラックボックスなど存在しない。
これが、あるべき地盤調査の未来像ではないか、と考えます。



秋野卓生(あきの たくお)

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

【役職等】
平成16年〜平成18年  東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント


ジャパンホームシールド編集部
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