ジャパンホームシールドのTIPS

住宅会社が取り組むべきSDGs


   私は今から5年前の2017年にSDGsに着目し、事ある毎に住宅会社のSDGsへの取り組みの重要性を説いてきました。

   教育現場でも企業研修でもSDGsは大きく取り上げられるようになり、日常的な用語として使われるようになっています。

   しかし、今、SDGsに対する正しい理解をせぬまま広告宣伝手段として都合良くSDGsを使っている企業に対しては「うさんくさい」という声があがっています(朝日新聞2022年6月19日号では「SDGsうさんくさい?」というテーマの特集が組まれています)。
​​​​​​​企業のアピール合戦の手段としてSDGsを使っていると、その企業姿勢が消費者に「うさんくさい」と思わせ、逆効果になりかねないリスクも知っていただかなければなりません。


目次[非表示]

  1. 1. SDGsとは
  2. 2. 新しい都市のあり方
  3. 3. 地域密着型工務店のチャンス
  4. 4. 働きがいも経済成長も
  5. 5. 学び直しの場を持とう
  6. 6. 事業承継にも真剣に取り組みたい
  7. 7. トラブルの早期解決こそ重要
  8. 8. 司法と福祉の連携「住宅は生きていくため必ず必要なもの」
  9. 9. SDGsを経営理念に取り入れる
  10. 10. Z世代の声に耳を傾け、SDGsの本質を理解しよう


 SDGsとは

   
   国連で地球規模の課題解決を目指し、採択された2030年までの目標です。森林保全などが住宅業界ではSDGsの代表格として使われていますが、貧困や格差、ジェンダー平等など17分野の目標と169のターゲットがあります。

   社会の歪みを是正し、人権侵害行為を抑止する社会を意識的につくっていかなければならないという持続可能な社会を実現していこうという試みですから、自社のアピールに本質があるのではなく、人権侵害行為をやめる取り組みに力を入れることが大切です。
例えば、パワハラなどのハラスメントを防止する取り組みをすることもSDGsの取り組みの一つとなります。
困っている人の立場に立って、課題を克服するためにできる限りの事をすることが大切です。

   また、SDGsを真に理解し、取り組みが「本物」と評価される事も大切です。中身を理解せず、SDGsをホームページ等で語ると「うさんくさい」と思われ、逆効果となりますので、まずはSDGsの勉強が大切です。

 新しい都市のあり方

   コロナ禍前の我が国は、多くの人口が都市に集中し、非常に効率のよい通勤システムを作って、何百万人を毎日都心と郊外へ運んでいました。住みたい街ランキングも、都市へのアクセスの良さがポイントとなり、これまでの常識となっていました。

   しかし、コロナ禍で都市のあり方に関する考え方が今、変わりつつあります。
新しい都市の在り方を検討していくにあたり、自社がどのような事に貢献することができるのかという視点は、住宅業界の皆様にとってSDGsに取り組むにあたって一番最初に検討すべき課題であろうと思います。

 地域密着型工務店のチャンス

   テレワークの本格化とともに、地方への移住希望者が増えれば、地域工務店のチャンスに繋がります。
幸いなことに、今は人が集まらなくても生活や仕事ができる時代です。テレワークやオンライン会議だけでなく、他にもさまざまな技術が人口の分散化を可能にしてくれます。

   また、わざわざ都市に人口を集中させ、洪水のリスクを承知のうえで湿地を開発して暮らすというこれまでの価値観をリセットして、安心、安全な場所に住むという住まい方の提案も地域密着型工務店の皆様には、SDGsの一環として取り組んでいただきたいと思います。

   エネルギー問題の解決や住み続けられるまちづくり、人間の快適な暮らしをトータルで叶えるキーワードとしてSDGsを活用いただきたいと思います。

 働きがいも経済成長も

   工務店経営者の皆様は、コロナ禍の中で次々と襲ってきた感染拡大の波に対してどのように対処されたでしょうか?
​​​​​​​新型コロナ特措法は、企業経営者に対し、「事業の実施に関し、適切な措置」を講ずるよう努力する義務を定め、行政からの特定の指示や要請などを介さずに当該法律から事業者が適切な措置を自発的に講じることを求め、企業の自主判断を促しました。

   これに伴い、在宅ワークを徹底した企業もあれば、これまでと変わらぬ事業形態を維持した企業もあります。会社としての経営を維持しながら、従業員への安全配慮義務を果たす。まさにSDGsの「8 働きがいも経済成長も」が求められた場面でした。
従業員の健康を最大限に気遣う「健康経営」に取り組んだ企業もいます。

 学び直しの場を持とう

   私、住宅紛争専門弁護士になった若い頃から、住宅展示場に施主が無防備に出掛けていくのは、百戦錬磨の住宅営業マン(ライオンに例えます)にウサギが食べてくださいと飛び込んでいくようなものであると苦々しい思いで見ていました。

   住教育がない日本で、知識のない施主を吸い込んでいくこの住宅展示場のシステムは、「営業マンが信頼できるから請負契約をする」という事象を生んでしまい、住宅の性能やアフターメンテナンス体制といった本来、施主が真剣に検討すべき課題をあまり検討せずに高額契約に導かれていく悪しき慣習だと思っており、イメージギャップトラブルなど起きて当たり前であると思っていました。

   これが、コロナ禍になり、施主もウキウキ住宅展示場に出掛けていく事ができなくなり、他方でテレワーク環境など住居への関心が高まった事から、YouTubeなどで勉強した上で、住宅会社選びをするようになりました。イメージギャップトラブル防止の観点からは望ましい事だと思っています。

   そして今後は、家づくりの勉強をしっかりと仮想空間「メタバース」上の住宅展示場で行い、各社のメタバースを比較検討した上で、最後は、実物の建物を見学して決めるという流れが未来のあるべき住宅会社選びの姿であると感じます。
こういった次にやってくる新しい社会にいち早く取り組めるように、社内全体の学び直しの機会を設けることも重要です。 

 事業承継にも真剣に取り組みたい

   これまでの常識を一気に変えるウイズコロナの時代。
諸外国では真面目に働かない人に頼るのではなく、オートメーション化にいち早く取り組んできましたが、日本人は真面目に一生懸命働き機械よりも有能であったので、オートメーション化への取り組みが遅れていたと言われています。

   しかし、人の結集力に全てを頼っていく企業経営に在り方は大きく変わる事になるでしょう。人でなければ提供できない期待感(ワクワク・ドキドキ)は人が創出するとして、それ以外の処理は自動化する新しい発想が重要ではないかと考えます。

   こういったイノベーションを果たす激変期にこそ、若手の柔軟な頭脳を活かすべきであり、次世代の工務店後継者への事業承継計画の策定もセットで取り組んでいきたいと思います。
事業承継の失敗事例をトラブル処理の場面で沢山見てきた私は「事業承継は失敗が許されない。後戻りの許されない重大な課題」であり、SDGsの視点を持って正しく計画を立てるべきであると考えています。

 トラブルの早期解決こそ重要

   裁判になってしまう事案は、初期対応に失敗し、紛争の根が深くなってしまい、やむを得ず裁判所の審理に委ねざるを得なくなるものが大半です。紛争を深刻化させる前に解決するためには、トラブルが発生した際に「不要不急」と後回しをせずに、トラブルの早期解決は優先順位の高い課題であると認識していただく必要があります。

   匠総合法律事務所は、住宅・建築・土木・設計・不動産業界の専門法律事務所として紛争の裁判前の早期解決に力を入れ、争いのない世界を目指したいと思います。

 司法と福祉の連携「住宅は生きていくため必ず必要なもの」

    

   新型コロナウイルス対応の中で、何とかしなければと感じた事例が、派遣労働者が雇い止めになり、住んでいた寮を退去させられ、職もないのでアパートにも入居できない、という事態が発生したことへの対応でした。生活保護受給者になると、今度はアパートオーナーが、生活保護受給者の入居を渋るという事態。

   困った人を助けるのは行政の役割と、困った人を見放して良いのか?日本には多くの空き家があるのだから、ちょっとしたビジネスで住宅に入居できない人を救済できないのか?という課題を認識しました。

   しかし、こういった時のためのネットワークと与信管理の仕組みを作っていませんでした。この反省を踏まえ、次の危機に備え、業界横断的なネットワークと与信管理の仕組みを構築していかなければならないと考えています。

 SDGsを経営理念に取り入れる

         
   私は、SDGsについて人権を擁護するという立場から取り組んでいます。
東南アジアで奴隷的な扱いを受け、人権を侵害されながら働かされている子女を救うためには、そういった人権侵害企業から物を買わない、目の前の輸入商社の先の取引先まで審査するというビジネスデューデリジェンスが重要であるという取り組みです。

   このSDGsを学ぶ中で、世界は本気でSDGsを遵守する企業を持続可能な企業と評価することを知り、住宅業界の皆様にも経営理念にSDGsを取り入れていただきたいと思います。
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 Z世代の声に耳を傾け、SDGsの本質を理解しよう

   
   環境教育を受けて、SDGsも教育現場で学んでいるZ世代の若者は、SDGsを正しく理解しています。
朝日新聞に寄せていた10代の若者の意見で「SDGsは未来のためにも大切だし、必要なことだ。でも、企業の「やってますよ」アピールは面倒だ。商用に使われていることに違和感がある。」というものがありました。グサッと胸を刺す発言ですよね。

   目標を達成するために努力する姿は、本来、壮絶なものです。
金メダルを目指してトレーニングしているアスリートと同じような真剣さがなければ、SDGsの目標など達成できない事を若者は知っています。この若者達に、「あそこの会社のSDGsってみせかけだよね」と言われてしまうような会社は、持続可能な企業とは言えないと思います。

   結論的に、今回私が提案したいのは、SDGsを真剣に理解し、実践するためまずSDGsの勉強をしましょうという事です。
「うさんくさい」と言われないための学びが何よりも重要だと思います。



秋野卓生(あきの たくお)

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

【役職等】
平成16年〜平成18年  東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント


ジャパンホームシールド編集部
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