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判例に学ぶ!大雨起因の土砂災害事故は免責か?

 

   
   令和2年7月豪雨では、多くの被害が発生しました。
豪雨に見舞われた結果の土砂災害事故の法的責任については過去の判例があり、これらの知識を持った上で対応する事が大切です。

   大雨に起因するので、「不可抗力免責として、開発業者・施工業者が責任を負わないこととなるのか?」という相談事例もあります。このような法律相談に対して、まずは、大雨に起因した土砂災害事故等に関する判例としてどのようなものがあるか、そして解説したいと思います。


目次[非表示]

  1. 1. 豪雨による崩落で、車が損傷。その責任は?
  2. 2. 歩道設置工事をした傾斜地の崖崩れに対しての責任は?
  3. 3. 国道路体の一部が集中豪雨により決壊。家屋倒壊の責任は?
  4. 4. 自宅裏の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。
  5. 5. 有料道路の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。
  6. 6. 法的解釈の3つのポイント
  7. 7. おわりに

 

 豪雨による崩落で、車が損傷。その責任は

東京地裁 平成8年9月27日 判決

​​​​​​​   崩落箇所は一部にとどまること、傾斜地にもかかわらず丘陵に接して駐車場が設けられていたことから、丘陵部分に何らかの土留め設備があれば崩落事故は生じなかったとの可能性を否定できない。
また、土砂崩れが始まってから車両に土砂が被さるまでの崩落の勢いはさほど急激なものとはいえず、迅速に対応していれば車両の損傷を防止できた疑いがある。

   車両の損傷が不可抗力によるものとまで認められず、被告は損害賠償の責任を免れない。

 歩道設置工事をした傾斜地の崖崩れに対しての責任は?



新潟地裁長岡支部 平成23年12月7日 判決

   崖崩れは、記録的な量の降雨を原因として発生したものといわざるを得ず、工事によって敷設された歩道の設置管理に瑕疵があったとは認められない。

   よって、歩道設置工事施工及び設置管理者である自治体の損害賠償責任が否定された。

 国道路体の一部が集中豪雨により決壊。家屋倒壊の責任は?



津地裁 昭和52年3月24日 判決

   事故時の降雨が異常な集中豪雨であり、国道311号線沿いに崖崩れや土石流の発生等による多数の被害があったこと、今回と同程度の降雨が以前にもあったこと、約1年3か月前に開設された農道が斜面の安定上好ましくないとされていることが認められた。
​​​​​​​さらに、側溝設備の不完全等があいまって今回の災害が発生したとされ、一般の科学技術水準に照らし予測不可能あるいは回避不可能であったとの証拠も不十分として、道路の設置管理の瑕疵を認めた。

 自宅裏の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。


   自宅裏の崖が土砂崩れを起こし、それに巻き込まれて亡くなった方のご遺族らが、死亡は被告町及び被告道が同崖に施した工事による営造物の設置又は管理に瑕疵があったためであり、仮にこれが認められないとしても、町には避難勧告義務違反があり、同崖に防災工事等を施す等の作為義務に違反したとして、被告らに対し家賠償法に基づく損害賠償を求めた事案

事件当日午前0時ころには総雨量が45㎜、午前5時ころに総雨量は105㎜、午前5時から6時までの雨量は42㎜となり、午前7時までの総雨量は157㎜に達した。

函館地裁 平成13年9月27日 判決

   本件営造物は落石防止を主目的としたもので、被告らに設置又は管理上の瑕疵はなく、被告町が避難勧告を発令しなかったことが著しく不合理で国家賠償法上違法とはいえず、また、被告道が同崖の崩落を客観的に予見できたとはいえない。

 有料道路の土砂崩れに巻き込まれ死亡事故が発生。


​​​​​​​   有料道路である九州自動車道を、自動車に乗車して走行中、土砂崩れに巻き込まれて死亡した者の遺族らが、道路管理会社に対して、選択的に、安全配慮義務に違反した債務不履行、民法709条又は717条に基づく損害賠償を請求した事件の前々日午後5時から同月25日午前10時にかけて300.5㎜、本件事故当日午前5時ころから再び集中豪雨が発生し午前9時から午前10時まで時間降雨量は57㎜、午前10時まで連続雨量は184㎜

福岡地裁小倉支部 平成24年6月6日 判決

   被告には、本件現場付近に監視車両を派遣して土砂崩れの前兆の有無を点検し、その手前に電光掲示板を搭載した車両を配置して速度規制をするとともに、事故当日の午前10時には通行止め規制を実施して、発生する可能性のある土砂崩れ等に巻き込まれるのを防止すべき義務があったにもかかわらず、これを怠った過失があったものということができる。
 
   次に、法的解釈のポイントをご説明します。

 法的解釈の3つのポイント


1. 必ずしも「大雨起因の不可抗力免責」とは判断されない。

   まず、新潟地方裁判所長岡支部 平成23年12月7日 判決が、本件崖崩れは、同日の記録的な量の降雨を原因として発生したものといわざるを得ないと判示しています。この事案では、総降水量427㎜という大雨であり、不可抗力として認められる雨量の基準になろうかと思います。

   次に、東京地裁 平成8年9月27日 判決が、「本件丘陵部分に何らかの土留め設備が設けられていれば本件崩落事故は生じなかったとの可能性を否定し去ることはできない」と判示している部分も注目に値します。この事案では、「本件丘陵部分は傾斜地であるにもかかわらず、これに接して駐車場が設けられていた」ことから、土留め設備の設置の必要性を判示します

   また、津地裁 昭和52年3月24日 判決は、「農道が本件事故の約1年3か月前に開設されたこと、右のような農道を設置することは斜面の安定上好ましくないとされていることが認められ、加えて、側溝設備の不完全等があいまって本件災害が発生した」と判示し、「本件事故が予測不可能な、不可抗力によるものであるとはいい難い。その他、本件事故が一般の科学技術水準に照らし予測不可能あるいは回避不可能であつたことを確認させるに足りる証拠はない。」として、事故は側溝等の排水施設の不備、不完全に基づくものであるとして、右道路設置管理瑕疵を認めた判決を書いています。

2. 造成地の場合、造成業者に法的責任があるか?

   造成業者は、擁壁の造成に当たり、周囲宅地・建物居住者生命身体、財産を危険晒すことがないような安全性を確保すべき注意義務負っているものということができます(最高裁 平成19年7月6日 判決参照)。​​​​​​​

   上記注意義務が認められる場面については、例えば、昭和49年に静岡県賤機山で起きた土砂災害について、静岡地裁 平成4年3月24日 判決が、擁壁工事について、「本件柵板工土留は、豪雨時に背面からの土圧及び水圧によって崩壊する危険があるというべきところ、本件柵板工土留は、降り始めからの積算雨量が、約229.5ミリに至るまでに崩壊しており、…この程度の降雨量は…過去の観測データにおいても数回あることが認められるので、本件斜面がおよそ30度ないし40度の急傾斜地となっており、その下方に…本件事故の被災者の建物が多数所在していたことを考慮すると、本件柵板工土留は、山の尾根下沿いの急斜面の土留として通常要すべき安全性を欠いており、瑕疵があったと判断せざるを得ない」と指摘したことが参考になります。

   ここで着目すべきは「この程度の降雨量は…過去の観測データーにおいて数回あることが認められる」と指摘していることです裁判所は、このように想定内の降雨であったとして、「不可抗力」ではなく、工事の不備と判断をしています。

   また、兵庫県宝塚市花屋敷で起きた土砂災害で住宅が被害にあい一家4人が死亡した事故について、大阪地裁 平成13年2月14日 判決は、当該住宅の売主の責任について、「本件斜面地は、切土され人工的に形状が変化された50度を超える急斜面で、災害危険地域図では崖崩れ危険地域に指定され、本件建物と崖面の距離はわずか5メートル程度であったこと、本件斜面地において、少なくとも昭和58年及び平成5年に土砂崩れが起こり、殊に平成5年7月の崩落事故は、本件土地付近まで土砂が押し寄せ、高さ40cm、広さ100㎡にわたり堆積するという規模の大きなものであったこと、平成6年6月には被告会社が…(行政庁より)本件斜面地の防災工事に関する勧告を受けたことからすれば、本件防災工事施工当時、被告会社の代表者…において、本件斜面地が崖崩れの危険の大きい箇所であることを認識し、崖崩れが発生した場合には、本件建物のみならず、本件建物に居住する住民の生命、身体、財産等が損害を被ることにつき、予見することは十分可能であったものと認められる。したがって、被告会社が本件土地・建物を他人に住居として売却するに当たっては、他人の生命、身体、財産等に被害を与えないよう、可能な限り本件斜面地の安全性について調査、研究を尽くした上、十分な防災工事を行うなどして安全性を確保するための措置を講じるべき義務がある」と判示し、売主が売却に当たって十分な防災工事を行っていなかったことを理由として、土地の売主に対して、被害者の遺族に、逸失利益、慰謝料等を含む売価の数倍にも達する高額な損害賠償責任を命じました。

   なお、この事案では、売主もある程度のがけ崩れ防止工事を行っていましたが、裁判所が「本件売買契約締結当時、本件斜面地に崖崩れ発生すること具体的に予見可能であり、その場合は本件土地・建物居住する住民の生命・身体等損害及ぶ大きな危険性存すること客観的認識可能であったであるから本件土地・建物を一般私人住居として売却する以上経済的観点理由として、安全性確保措置講じる義務ないと到底いえないこと明らかである」と断じていることも注目に値します。

   このように具体的危険性が認識されている場合は「できるだけ頑張った」「これ以上の対策は経済的に不能である」という反論容易認められません経済的に十分な安全性が確保できないなら販売してはならないというが裁判所の考えでしょう。
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3. 行政の損害賠償責任

   土砂災害が生じた場合、各法(「砂防法」「地すべり等防止法」「急傾斜地の崩落による災害の防止に関する法律」及び「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」)に基づく事前規制を実施していなかったとして、行政の責任も検討対象となります。

   例えば、先述した静岡地裁 平成4年3月24日 判決が「①急傾斜地の崩壊によって住民の生命、身体及び財産に対する法益侵害の具体的な危険が切迫し、かつ、県知事においてこれを予見することが可能であること、②県知事が、その権限を行使することによって、右のような危険ないし法益侵害を避けるとができ、かつ、当権限を行使することが可能であること、③住民自らが急傾斜地の崩壊による法益侵害の発生を防止することが困難であって、県知事に右権限の行使を期待せざるを得ないという事情があること、以上のような要件充足する場合であるにかかわらず、県知事右権限行使しないときは、裁量権不行使著しく不合理なものとして違法と評価されること免れない」判示しています

 おわりに

 
   土砂災害の法的責任ついては未曾有の豪雨等による不可抗力であると言えるか否かが法的には重大な意味を持つと思われますもっとも「未曾有の豪雨」があるごとに「未曾有の豪雨」水準は上がり、更なる対策が求められます。ここには経済性と安全性の相克関係があり、悩ましい判断が生じます

   この中では、社会的合意形成手続を十分に経て、責任の押し付け合いとならない政官民の真協力が必要となるでしょう。



秋野卓生(あきの たくお)

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

【役職等】
平成16年〜平成18年  東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント


ジャパンホームシールド編集部
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