シロアリ被害による瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は?

   シロアリ被害が中古住宅に発生し、建物の築年数が古い建物の場合、建物自体の価値が低廉である一方、シロアリ被害の補修工事費用が建物価値を超えて高額になるケースがあります。

   中古住宅を売買した後に、シロアリ被害が発覚したケースにおいて売主の瑕疵担保責任が認められた場合、損害賠償額はいくらになるのか?

   損害の範囲について今回検討したいと思います。


目次[非表示]

  1. 1. case 01  築21年のリフォームした中古物件で売買契約締結当時にシロアリ被害が...その責任は?
  2. 2. case 02 シロアリにより所有建物を取り壊して改築を余儀なくされた。その責任は?
  3. 3. case 03 中古物件の買主代理人として蟻害による損害賠償請求を行った。その責任は?
  4. 4. 秋野弁護士のポイント解説

  

 case 01  築21年のリフォームした中古物件で売買契約締結当時にシロアリ被害が...その責任は?


   ある建主らが築21 年の中古物件を競売で取得し、リフォームして転売した事案で、競売手続きの建物評価額は68 万円、売主らが売買契約締結前にリフォーム等にかけた費用は479 万円。
他方で、売買契約締結当時、既にシロアリにより土台を侵食され、建物の構造耐力上の危険がある瑕疵があった。

東京地裁 平成18 年1 月20 日 判決  買主の損害を認定

​​​​​​​   シロアリ被害の補修工事費用について、A 建築士は補修費用を1468 万円と鑑定。しかし、この鑑定には不要な補修部分が含まれており、B 建築士は見積もりの972 万円に相当する部分は不要な工事であると判断し、補償費用は約500 万円と鑑定。
(中略)「本件売買契約締結当時の本件建物の客観的価値は、本件建物を構造耐力上安全な建物にするための補修費用を考慮するとほとんどなく、また、その補修費用は500 万円程度であると推認することができる」と判示。買主は500万円の損害を被ったと認定した。

   また補修工事のため、引越し代、代替物件の賃貸費等も含め、合計718 万円を損害賠償額と認定。これに加え、弁護士費用として損害賠償額の1割も損害と認定された。

 case 02 シロアリにより所有建物を取り壊して改築を余儀なくされた。その責任は?


​​​​​​​    建物の所有者である賃貸人が賃借人及び連帯保証人を相手に、建物にシロアリが発生していることに気がついているのに、賃借人が賃貸人に通知しなかった債務不履行を主張。

東京地裁 平成17 年11 月29日 判決  損害賠償請求の一部認容

​​​​​​​   シロアリの発生を家主に通知すべき義務を怠ったと認定し、損害賠償請求の一部を認容した。「本件建物を取り壊すほかない状況におかれ」、「同建物の経済的価値を失う結果となり」、「本件建物の固定資産評価額が301 万円であることから」、これと同額の損害を被ったとし、建物の取り壊し費用として178 万円も損害と認めた。

   賃貸人は木材の防腐剤及びシロアリ駆除薬を購入し、対策を講じていたが、それでは不十分と評価され、「本件建物について生じた損害のすべてを被告らに賠償させるのは公平に反するため、原告の過失の割合を3割とする」として(過失相殺)、損害額の7割である336 万円の賠償を賃借人及び連帯保証人に命じた。

 case 03 中古物件の買主代理人として蟻害による損害賠償請求を行った。その責任は?


─匠総合法律事務所の裁判事例─

   買主が購入した中古物件は、売買契約の約款には、瑕疵担保責任*1 の規定として、「売主は、買主に対し、土地の隠れたる瑕疵および次の建物の隠れたる瑕疵についてのみ責任を負います」との規定に続けて「シロアリの害」との記載があった。

   また、売買契約締結前の物件状況報告書においても、「現在までシロアリの害を発見していない」との表記があり、買主はシロアリの害が発生していないものとして購入していた。
売主側は、この損害賠償請求に対し、シロアリは外部から飛来してくるため、契約前の段階で巣くってはいない主張に加え、仮にシロアリの害があっても構造上の問題はないなどと、非常に低廉な額での補修方法を主張してきた。

   また、単にシロアリが発生しただけではなく、建物自体に施工上の欠陥があったことで(中略)シロアリが発生しやすい環境をつくり出していたことも原因のひとつである点も買主側として主張し、構造上の問題も専門家の意見を元に指摘した。

*1  令和2 年4月1日以降の契約からは契約不適合責任

裁判所からの和解勧告により和解

   最終的な和解案としては、当方の請求額全額について、売主側に支払義務があることを認めさせた上で、そのうちの一部(補修費用相当額に近しい金額)について支払を了したときは、残額を免除するという内容にて和解が成立した。

 秋野弁護士のポイント解説


​​​​​​​​​​​​   今後、中古住宅の流通促進策が国土交通省も推進していくことになろうかと思います。
​​​​​​​その中古住宅がシロアリ被害にあっている場合、中古住宅を取得してリフォームをして住み続けたいと考える買主は、補修費用相当額全額を売主に対して賠償請求できるわけではなく、中古住宅の価値を超えて賠償請求することが困難と言うべきでしょう。

   従って、中古住宅を安心に売買して住み続けるという政策を進めるにあたっては、建築士によるインスペクション売買契約締結時に実施する等の策が必要となってくると考えます。



秋野卓生(あきの たくお)

弁護士法人匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与している。
2017年度より、慶應義塾大学法科大学院教員に就任(担当科目:法曹倫理)。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書がある。

【役職等】
平成16年〜平成18年  東京簡易裁判所非常勤裁判官
一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士
一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント
令和6年度  日本弁護士連合会常務理事、第二東京弁護士会副会長

ジャパンホームシールド編集部
ジャパンホームシールド編集部
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